注視したいミャンマーの行方 : スローズナヤ・クラサタだより(1)


注視したいミャンマーの行方

 ミャンマーで軍事クーデターが起き、軍部支配への抗議行動に参加していた市民に重傷者が出ているという。今回のクーデターによって急速にミャンマーへの関心が高まっているが、日本人の多くはまだ同国について知るところが少ない。私(クラサタ)は、昨年ごく短期間訪問しただけだが、たちまち魅了されてしまった。

 訪問前には、貧しい国なのかと思っていたが、とんでもない、鉱物資源も食料もきわめて豊富で、すっかり認識を改めさせられた。寺院や仏像のほとんどが金箔で覆われてピカピカなのも、金がふんだんに採れるからである。過去に独自の社会主義路線をとることができたのは、この豊かさに由来するものだったのだろうか。

 

寺院はどこも金ピカピカ


 観光資源にも目を見張るものが多い。数千もの仏塔が原野に林立するバガンの遺跡群、2000以上の仏塔がひしめくカックー遺跡など、何度でも訪れたくなる。ガイドさんの説明によるとバガンやカックーの仏塔は、家族のものではなく、あくまで建立した個人のものなのだという。人々の独立心も強いのだろうか。

 

バガン遺跡群

 

カックー遺跡

 大小あわせ135もの民族を抱えた多民族国家として、民族共生の観点からも注目される。一方、懸念されるのは、ロヒンギャ問題の行方である。国民の9割が仏教徒であるミャンマーにおいて、ムスリムロヒンギャは国籍も与えられず、苛酷な差別を受け続けてきた。アウンサンスーチーは、ロヒンギャ問題解決に消極的姿勢しか示さなかったとして国際的非難を浴び、ノーベル平和賞を剥奪せよという声すらあがった。だが国内的観点からみるとこの問題には一筋縄ではいかない難しさがあるようだ。スーチーは、今回の軍部独裁反対運動の象徴的存在となっているように、国内での人気はいまなおきわめて強い。国際社会はスーチーを批判するよりもまず、彼女のもとで民主主義を取り戻し、時間をかけて粘り強くロヒンギャ問題解決に向かうよう促していくのが良いのではないか。

 なおミャンマーでは民衆の間に非暴力闘争がかなり深く浸透していると思われる。米国の非暴力研究家ジーン・シャープ(Gene Sharp)は1993年にFrom Dictatorship to Democracy(邦訳 瀧口範子訳『独裁から民主主義へ』筑摩学芸文庫、2012年)を執筆し、非暴力によって独裁政権を倒す方法を世界に広く知らしめたが、実は彼がこの本を執筆したきっかけには、ミャンマー人による働きかけがあった。ベトナム戦争の体験から軍事的方法に限界を感じ、その後シャープの方法に共鳴するにいたった米国軍人のボブ・ヘルベイが、ミャンマーを訪問したときシャープの方法を教えたところ、それに感心したミャンマー人がシャープにぜひ本を書いて欲しいと依頼したのである。シャープは同書において198もの非暴力闘争の方法を具体的に示している。

 非暴力で軍部支配に立ち向かうミャンマーの人々がそれらをどう駆使して民主化路線を回復させていくか、彼らの運動を注視し見守っていきたい。